赤ちゃんのためのお米ポタージュ

対談

おいしく栄養に優れた「食」が
赤ちゃんの体、脳、味覚、心を育む

赤ちゃんの初めての食事となる離乳食。食を通して健やかに育ってもらいたいと願うものの、どんな食材でどんな栄養を補えばよいか悩むお母さん、お父さんも多いことでしょう。
実は、離乳食期(5か月ごろ~1歳半ごろ)は身体や脳、味覚、情緒が著しく発達するとっても大切な時期。心身の土台を作るこの時期こそ、成長発達に必要な栄養素についてしっかり考えていきたいものです。
また、胎児期から味覚を学ぶといわれる赤ちゃんは、私たちが思っている以上に舌が肥えた小さなグルメさん。栄養だけでなく、離乳食の風味も、食事を楽しんでもらうためにこだわりたい要素です。

女性医療および骨粗しょう症研究の第一人者で、骨の成長に詳しい太田博明医師・医学博士と、子どもの“育脳”レシピを考案する管理栄養士で料理研究家の小山浩子先生に、理想的な離乳食についてお話しいただきました。

離乳食期は子どもの嗜好が決まる大切な時期

まずは、赤ちゃんが好む味について伺いたいと思います。そもそも赤ちゃんの味覚はいつから形成されるのでしょうか?

太田先生(以下、太田):私が産婦人科になった当時、お腹の赤ちゃんの心音はトラウベという木製の聴診器をお腹にあて、耳で聞くような時代でした。今や超音波機器が発達し、心音はもちろん、子宮内の赤ちゃんの状態やしぐさを立体的に詳細に捉えられます。そこで見られるのが、赤ちゃんがお母さんの羊水を飲んでいる様子です。
羊水中には、基本的な成分に加え、お母さんが摂った栄養が影響するため、羊水の成分は一人ひとり違います。赤ちゃんはお腹にいるうちから、お母さんの食事の嗜好を学び生まれてくる。味覚の形成は、お腹の中から始まっているんですね。
実際、味覚が発達し始めるのは妊娠7週ぐらいです。口の中で味を感じるのが妊娠20週あたりから。生後3か月にもなると、5味(甘味・酸味・苦味・塩味・うま味)すべてが揃い、3歳までにほぼ嗜好が確立します。つまり、3歳までが味覚形成に非常に重要な時期で、そのちょうど真ん中にあたるのが、離乳食期。離乳食は嗜好の確立をサポートする、とても重要な役割を担っているのです。

母乳のうま味と甘みこそ
赤ちゃんが慣れ親しんだ味

お腹のなかからすでに味覚の形成が始まっているのですね。では、初めての食事となる離乳食で特に大切にすべき風味とは?

小山先生(以下、小山):赤ちゃんは生まれた時点で、味を感知する舌の味蕾細胞が1万個以上あると言われています。これは大人よりもはるかに多い数で、赤ちゃんは私たちが思う以上に味に敏感なんです。
そして、興味深いことに母乳には昆布出汁に匹敵するうま味成分のグルタミン酸が含まれています。羊水にもグルタミン酸が含まれている。赤ちゃんはお腹の中にいるときから、うま味をしっかり感じ取っているのです。
さらに、赤ちゃんは生まれて1年ほど母乳や人工乳で育ちますが、そのほのかな甘みを脳がリラックスする、安心できる味として認識します。
一方、離乳食期で食べたことがない味を感じ取ると、人間の防御反応が働き、苦いものは毒、酸っぱいものは腐っていると脳が認識します。ですから離乳食の与え方によっては、小学校に入って給食が食べられなくなるなど偏食につながることもあります。だからこそ、離乳食期は赤ちゃんが安心感をもって、母乳から移行できる風味が大切なんです。

太田:日本食は昆布やかつおぶしの出汁を生かすのが特徴ですが、それがうま味ですよね。赤ちゃんにとっては、母乳のほのかな甘みとうま味が、慣れ親しんだ味ということになるわけですね。

小山:そうですね。ただし、砂糖のような甘さはでは、本当の意味では満足しません。極端な甘味と極端な塩味は、脳を麻痺させると言われています。

太田:確かに、子どものうちから過度に甘いものを与えすぎると、それが麻薬のようになって他の味を拒絶してしまう。味覚が育たないのですね。子育てにおいては、お母さん自身の味覚がとても大事になるわけですね。

身長体重だけでなく
脳や骨の成長にも目を向けて

離乳食期は身体の成長や脳の発達が著しい時期です。この時期に欠かせない栄養素についてお聞かせください。

太田:個人差はありますが、今の赤ちゃんは出生体重3000g、身長50㎝が標準です。それが1才までに、体重は3倍の9㎏、身長は1.5倍の75㎝に成長します。子どもは思春期に急激に身体が大きくなると思われがちですが、やはり1~3歳、特に生まれてから1歳までが、人生においてもっとも身体発達が著しい時期。この時期に食事や生活習慣を通して、いかに正常な心身の発達を促してあげるかがとても重要です。

小山:身長や体重もそうですが、脳も3歳までに目覚ましく発達します。赤ちゃんは摂取エネルギーのうち2/3が脳の発育に使われると言われていて、3歳までに大脳、小脳、脳幹と、基本構造がほぼできあがり、脳のほぼ80%が完成します。そう考えると、母乳から離れたあとのお子さんの身体の成長、脳の成長に満足いく栄養素を考えて、子どもの食事を作ることが大切です。

太田:おっしゃるとおりです。赤ちゃんは生まれてから3歳くらいまでは身体の他の部分とくらべて頭がとても大きいですよね。生まれたときに頭囲が30㎝だった赤ちゃんが、生後6カ月で40㎝、3歳で46㎝と、平均して13㎝も大きくなります。脳はそれだけ猛スピードで栄養を吸収し成長しているのです。体重と身長だけでなく、脳の発育にも気を配る必要があります。

小山:健全な脳の発達は、医学的にみても情緒の安定にも関連性があると理解しています。脳に栄養が行き届きしっかり育まれると、赤ちゃんの心も豊かになると感じます。
いろいろな理由で離乳食が手作りできない、とつい罪悪感をもってしまうお母さんもいらっしゃるでしょうが、既製品の離乳食にひと手間加えるだけでも、美味しくて栄養のある離乳食をつくることができます。きれいな器によそってあげたり、食事の時間を楽しく穏やかに過ごすことも、情緒を育む大切な要素です。

太田:もちろんです。愛情をかけられた美味しいものを食べると、満足感を得られる。満足感があると、ゆとりができる。ゆとりがあると、いい考えが生まれる。このようないい連鎖をつくることで、身体と心のバランスがきちんと取れた子が育つのだと思います。

小山:脳の発育には、神経伝達物質の働きを活性化することが大切ですが、それにはカルシウムやビタミンB群、DHA、亜鉛、マグネシウム、葉酸などが欠かせません。脳の成長は一見して分かりづらいのですが、実は多様な栄養素を必要としているんです。ただ、これらが足りていなくても体重と身長は一応増えていくので、お母さんたちは不足に気が付きにくいんですね。

太田:骨格形成についても同じことが言えます。骨は直接見ることができませんが、しっかりした骨格を作るには、カルシウムだけでなく、カルシウムの吸収を助けるビタミンDや、骨の材料となるタンパク質が必要です。骨の成長や健康をサポートする栄養素として、今おっしゃったようなマグネシウムや亜鉛、葉酸に加えて、ビタミンK、カロテノイドといった微量栄養素も大切です。
若い女性にはダイエットをする方が多く、食事からの栄養素が不足していますが、本当は妊娠前の若い年代から、微量栄養素を摂るよう心掛けたいものです。

“乳清(ホエイ)”はうま味と栄養の宝庫

太田先生は、骨の形成に最適な栄養素として、牛乳からチーズをつくる際に採れる乳清(ホエイ)に含まれるMBP(Milk Basic Protein:乳塩基性タンパク質)のご研究を進められています。奇しくも小山先生も、乳糖の優しい甘味と、優れた栄養成分を兼ね備えた乳清に着目し、レシピ開発をされています。乳清(ホエイ)の魅力についてお聞かせください。

太田:カルシウムを多く含む牛乳は、骨の成長に役立つとして昔からよく飲まれてきました。カルシウムの吸収率も、カルシウム豊富な小魚が33%、小松菜が19%ですが、牛乳は40%と非常に優れています。
一方、私が着目するMBPは、牛乳に含まれるタンパク質の残りの2割にあたる、乳清(ホエイ)から摂れるタンパク質です。乳清(ホエイ)は、ヨーグルトの上澄みの水分といえば分かりやすいでしょうか。従来はほとんど廃棄されていた部分です。実は、この乳清(ホエイ)にこそ、骨の成長に大きく寄与する栄養が含まれていたのです。
MBPは、骨を作る骨芽細胞を促進する働きがあり、さらに骨の材料となるコラーゲンの合成を促します。その一方で、破骨細胞の過度な働きを抑えてくれる。MBPは1日40㎎、牛乳にすると800㏄摂ると、若い人から高齢者まで、骨密度を増やすことが分かっています。もちろん、赤ちゃんのうちから摂ると、しっかりした骨格形成につながるでしょう。

小山:MBPは今大変注目されている栄養素ですね。水に溶けて吸収しやすい性質があるので、牛乳から摂取するよりも、乳清(ホエイ)そのものから摂ったほうが赤ちゃんの身体にも優しいですね。
それから驚いたことに、乳清(ホエイ)の栄養成分を拾っていくと、母乳とほぼ同じ成分構成なんです。タンパク質や乳糖、必須アミノ酸、ミネラル、ビタミンと赤ちゃんの身体や脳の発育に関与する栄養素が見事に揃っています。ビタミンB群や葉酸も含まれています。必須アミノ酸の含有率を点数化したアミノ酸スコアも100%です。
さらに、乳清(ホエイ)の甘みは乳糖ですが、実は、乳糖は母乳の甘味や旨みを構成している成分なんです。つまり、赤ちゃんにとってホエイは、栄養を兼ね備えたすばらしいお出汁なんですね。

食物アレルギー予防には
離乳食期から徐々に慣すことが大事

乳清(ホエイ)というと、乳由来の成分で7大アレルギー食品の一つですが、近年、食物アレルギー予防の考え方が昔とかなり変わってきています。離乳食期の食物アレルギーについてご意見をお願いします。

太田:卵や牛乳などのアレルギー食材は、食物アレルギーの観点から、赤ちゃんのうちはなるべく与えないほうがよいというのが従来の医学の常識でした。しかし、ここ数年の研究によると、除去するのではなく、離乳食期のうちから徐々に口から取り入れ慣れさせていったほうが、腸管の免疫力がつき、食物アレルギーの発症を予防することが分かってきています。
乳由来の乳清(ホエイ)についても、すでにミルクアレルギーを発症している場合はアレルゲンになり得るので避けたほうがよいですが、そうでない場合は、少しずつ慣らしたほうがアレルギーの予防になりますし、何より赤ちゃんの成長に必要な栄養をバランスよく摂ることができます。

小山:管理栄養士も、これまでは栄養指導の際、できる限り卵や牛乳、大豆などアレルギーを発症しやすいものは、1歳以降に与えるようにと伝えてきました。
ところが、太田先生がおっしゃったように、最近の研究では、5か月ごろから始まる離乳食期にごく少量を口にして慣れさせたほうが重症化しにくいという報告が出てきています。アトピー性皮膚炎など、肌のバリア機能が低下した赤ちゃんが先に皮膚から食物アレルギーの原因物質を吸収すると、アレルギー反応を起こしやすいのですが、同じ食材でも、まず口から食べることで免疫細胞が活性化し、アレルギー反応が起こりくいことが分かったのです。食物アレルギーの考えの転換期にきていると感じています。

母親の食生活が子どもを育てる

食物アレルギーの観点からも、赤ちゃんも羊水でいろんな味や栄養素に慣れてきて、準備を経て生まれてくるのかもしれませんね。最後に、妊娠中の方や授乳中、子育て中のお母さんに、心がけてほしい食事について、アドバイスをお願いします。

太田:まずは骨を育てるカルシウムです。カルシウムの摂取量も1995年頃がピークで、平均一日585㎎摂っていましたが、ここ数年は平均500㎎にも達しておらず、カルシウム不足は深刻です。
それから、今の日本人はビタミンDが圧倒的に足りていません。ビタミンDは紫外線にあたることにより皮膚で80%が生成されますが、近ごろは美容目的で紫外線はカットする時代です。日本人の場合、約8割が不足または欠乏しています。ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、丈夫な骨を育てる欠かせない栄養素です。免疫機能・感染防御や筋肉の増強にもビタミンDが関わっています。
これらの栄養素がお母さんに不足していると、生まれてくる赤ちゃんにもマイナスの影響が及ぶことも考慮しなければなりません。ご妊娠前後の女性は人生において最も健康志向が強いといわれており、また実践もしているようです。この時期に蓄えた食に対する知識や知恵を、生涯にわたって家族の方々に上手に活かしていただくことも大切です。

小山:タンパク質は成長の要ですし、妊娠期、授乳期にもお子さんに栄養が行っていることを考えると、しっかり摂ってもらいたいですね。
そこにプラスして、脳や神経の発達に作用する必須脂肪酸のDHAやEPA、葉酸も大切です。これらの栄養素は単体で吸収することがとても難しく、葉酸は鉄分と、DHA・EPAはビタミンCと、カルシウムはビタミンDやマグネシウム、ビタミンB16と摂ると吸収がよくなります。栄養素、特に微量栄養素はチームワークで働くんですね。
漫然と食べていても、確かにお腹の赤ちゃんは大きくなるのですが、栄養が偏っていると、お子さんが小学生になったとき、成長に悩むこともあるでしょう。ではどの時点でその要素が作られてきたのか振り返ると、もしかしたら妊娠期や授乳期のお母さんの食事、あるいは3歳ぐらいまでの食事内容が一因になっていることもあります。
妊娠期、授乳期、そのあとの離乳食期というのは、お子さんの一生涯の成長に大きく関わってきます。ぜひ、食を楽しみながら、同時に偏りなく栄養が摂れるような食生活に目を向けてほしいですね。

対談者プロフィール(敬称略・五十音順)

太田 博明先生(医師・医学博士/山王メディカルセンター 女性医療センター長/国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授)

慶應義塾大学医学部産婦人科助教授、東京女子医大産婦人科主任教授を経て、現職。
乳幼児の成長や骨粗しょう症など骨の健康の他、女性医療の分野で、日本をリードするパイオニアである。また、医師や研究者による「MBP」研究会の副会長も務めている。
学会や講演のほか、NHKやマガジンハウス「クロワッサン」などメディアにも数多く出演。著書に『骨は若返る』さくら舎、『Dr.クロワッサン 何歳からでも骨は強くなる』マガジンハウス、『女性医療のすべて』メディカルレビュー社、『「見た目」が若くなる女性のカラダの医学』さくら舎、『頭のいい子に育つ育脳レシピ』日東書院(監修)など。

小山浩子(管理栄養士・料理家)

大手食品メーカー勤務を経て2003年フリーに。料理教室の講師やメニュー開発、特に育脳レシピを数多く手がける。栄養コラム執筆、NHKをはじめ健康番組出演等幅広く活動。
育脳に関する著書も多く、2014年グルマン世界料理大賞を受賞した「目からウロコのおいしい減塩「乳和食」」(社会保険出版社)では乳清の健康効果にも触れており、『頭のいい子に育つ育脳レシピ』日東書院、『子どもの脳は「朝ごはん」で決まる!』小学館、『7歳までに決まる!「かしこい脳」をつくる成長レシピ』PHP研究所、『人気管理栄養士が教える 頭のいい子が育つ食事』日本実業出版社など、育脳食のプロフェッショナルでもある。